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文字が図形になる瞬間(3)中高年でも癖字は克服できるか

さて、これはどんな字の一部でしょうか。

201509意味のない図形1

実はこれは字ではなく、眉毛と閉じた目を描いたものです。横に鼻を描いてみるとよくわかりますね。

201509意味のない図形2

ごめんなさい、冗談です(^^; この二本の線に……

201509意味のない図形1

こんな線を重ねると……

201509意味のない図形3

もうおわかりですね。

201509意味のない図形4

はい、『書蒼』ペン習字のお手本にある「ま」になりました。岡田崇花先生が楷書に合わせて書かれるときのひらがな「ま」です。

「ま」の中に、「眉毛と閉じた目」がまだ見え続けていますか?

とすると、あなたは引き続きゲシュタルト絶賛崩壊中です(笑)

お手本の字をじっと見つめて積極的にゲシュタルト崩壊を起こし、字を意味のない図形や線の集まりとして見る。あるいは絵のように見る。これができている間は、自分の脳内にある癖字のイメージに邪魔されないはずです。本当の意味で、お手本の字を無心に見ていることになります。

こうして本当に無心にお手本を見ることができると、その字は今まで思っていたものとはだいぶ違うイメージのものとして見えてくると思います。字がすっかりイメージチェンジしている。字の見方が変わったわけです。

脳内イメージにも変化がもたらされます。そして、この作業は年齢に関わらず可能です。

前回ご紹介した脳研究の池谷祐二先生によれば、年をとっても脳の能力が衰えることはないそうです。つまり何歳になっても脳内の文字イメージの上書きは可能です。

述べたような作業がすんなりできるか、ちょっと苦労するかは年齢差で決まるものではない。いくらか個人差があるのみでしょう。

「年をとると癖字を直すのはむずかしい」なんて言う人がいます。私が51歳でペン習字を始めたときにも、ある師範の方から言われました。「年をとると頭が硬くなる。癖字が直らない人が多いよ」ってね。暗に「その年で始めてもあまり上達しないよ」と言われているような、嫌な気分がしたものです。

しかし、そのおかげで、中高年でも癖字を克服して自分の字を変えていくためのには何をすればいいか、真剣に考えるようになったわけなので感謝感謝(^_^)

脳科学の最新の知見にたすけられつつ、私なりに出した今のところの答えについて、そろそろまとめてみます。

・人それぞれ、脳内に文字のイメージを持っている。癖字を書く人の脳内には癖字のイメージがある。

・癖字を直すためには、上手な字のイメージを脳に入力し続け、イメージを上書きしていく必要がある。

・新しいイメージを定着させるためには、入力だけではなく頻繁な出力も必要である。

脳の記憶容量には限界があるため、短期間に何度も入力され、かつ出力もされる情報ほど重要な情報だと脳が判断し、優先して記憶に残そうとする――と脳科学者は説明しています。

・お手本のイメージを脳に入力していく際は「文字」としてでなく、できるだけ無意味な図形、線として見てまねた方が、脳内の癖字のイメージの干渉を受けにくい。

そこで、虚心坦懐、お手本をじっと眺めて、ゲシュタルト崩壊を起こさせて、そこに現れた図形を真似するようにしてみよう、というのが私の提案であります。

自由自在にゲシュタルト崩壊させちゃおう!なんかかっこいい?(笑)

本当の意味で無心に手本を見て(入力)、本当の意味で無心に写す(出力)。これを頻繁に繰り返すことで新しいイメージの脳内への定着を促進する。成功すれば古い(癖字の)イメージは短期間に消えていくはずです。

・この作業は、年齢に関わらず誰でも行うことができる(若干の個人差はあるだろう)。

年をとると頭が硬くなり、なかなか上達しないよ、なんて決めつけている人こそ、古い常識にとらわれた頭の硬い人ということになるでしょう。脳科学は「人間は死ぬまで新しい知識や技術を習得していける」と教えてくれています。学び始めるのに遅いということはないのです。

中高年でも癖字は克服できる!

何歳になっても、正しい学び方をすれば字は上手になっていくのであります。

ひゃー、最後はちょっと文章が興奮しちゃったなあ(^^;

それではまた(^^)

文字が図形になる瞬間(2)脳内イメージを上書きする

一所懸命お手本をまねて書くうちに、徐々に徐々に、お手本に近い字が書けるようになってきます。

この過程で、私たちの脳の中ではどんなことが起こってるんだろう?と考えていた時期がしばらくあります。

もちろん、ない頭でいくら考えたって何もわかってはきません(笑)。脳科学研究の最新の知見について研究者が一般向けにやさしく書き下ろしてくれた、こういう本に教えを乞いつつ、考えてみたのです。

東大で脳研究をされている池谷祐二先生の著作。一般向けにわかりやすく面白く書かれていて、おすすめです。

『脳には妙な癖がある』
『受験脳の作り方―脳科学で考える効率的学習法』
『のうだま―やる気の秘密』

こうして見えてきたのは……、

人は誰でも、脳内に自分なりの文字のイメージというものを持っている。字を書くときには、この脳内イメージを参照しながら書いている。

子供より大人、大人の中でも中高年ほど、つまり長く字を書いてきた人ほど、そのイメージは強く染みついています。お手本を無心に写しているつもりでも、人は脳内のその文字イメージの影響から完全に自由にはなり得ない。言い換えれば、長年の間にしみついた癖がどうしても出てきやすい、と。

201509脳内イメージそのため、癖は一朝一夕にはぬけず、お手本に近い字が書けるようになるまでにはそれなりの期間を要します。

お手本をよく見て(新しいイメージを脳に入力して)、まねて書く(入力した新しいイメージを出力する)ということを何度も何度もくりかえす必要があります。

そうすることで徐々に脳内イメージが上書きされていき、結果として字が変わってきます。

この「出力する」というところが肝心なところです。新しい記憶を脳に定着させるには入力だけではダメで、「くりかえしの出力」が必要なのだそうです。

脳の記憶容量には限りがあるため、重要な情報を優先して残そうとするそうです。脳は、それを入出の頻度で判断するというのです。何度も何度も出入りする情報=大事な情報というわけですね。

習字で私たちの脳は、脳内の(世の中で上手とは見なされない)字のイメージを、先生が書く(世の中で上手と見なされる)字のイメージで上書きしていく作業を続けていく、と。

はやく上達するための道筋がこのへんから見つかるかもしれません。

第一にすべきことは、お手本をよく見る=新しいイメージを脳に入力する、ことでした。

しかし、無心に観察しているつもりでも、人間は自分の脳内にある文字イメージから完全に自由になることはできないわけです。脳に支配された人間の悲しさよ(-_-)

ならば、少しでも影響を小さくしたいぞ!( • ᄇ• )ﻭ✧

そのヒントになるのが、前回マエフリとしてお話をした「ゲシュタルト崩壊」ではないかと。ここでやっとお話がつながるのであります(^_^)

つまり、お手本の字を字として見ていると、どうしても脳内の文字のイメージの干渉を受けてしまう=癖が出やすい。そこで、字でなく意味のない図形のように見えてくるまで、じっと見つめ続けてやろう、というわけです。

お手本を見るときは、ゲシュタルト崩壊をあえて起こす。そのくらい、じっくり、じーっと見つめてみる。首尾よくゲシュタルト崩壊が起こると、お手本の字が意味を持たない形や線を集めたものに見えてきます。

その、現れてきた形や線をスケッチするように書く、いや、描く、というわけです。

というわけで、『書蒼』のお手本の中の或る字をじっと見つめてゲシュタルト崩壊を起こしてみたところ、こんなイメージが現れてきました。さて何の字の一部でしょう?

201509意味のない図形1

 ――わかった!簡単じゃん(笑)

ばれました?答えは次回に。それではまた(^^)/

文字が図形になる瞬間(1)ゲシュタルト崩壊

ゲシュタルト崩壊、とよばれる知覚現象があります。

Wikipediaではこう説明されています。

――ゲシュタルト崩壊(独:Gestaltzerfall)とは、知覚における現象のひとつ。全体性を持ったまとまりのある構造(Gestalt,形態)から全体性が失われ、個々の構成部分にバラバラに切り離して認識し直されてしまう現象をいう。(以下略)

なんのこっちゃ。

具体例で説明します。

メイリオというフォントの「た」です。これを無心でしばらくじっと見つめてみてください。

201509た

何か起こりませんでしたか?ぱっと見たときには「ta」と読むひらがなに見えたものが、「ナ」と「こ」の組み合わせみたいに見えてきた、とか、さらに進んで、無意味な図形の組み合わせに見えてきた、という方がおられると思います。

「ナ」も、じーっと見つめていると……、

201509ナ

根元の曲がった十字架の図形?腰の曲がったカカシ?

「こ」もじーっと見つめていると……

201509こ

二つの図形が上下に配置された意味不明のデザインに見えてきませんか?無理に意味を求めるなら、右向きの変な矢印と、ソリを図形化したデザイン?

これがゲシュタルト崩壊というものの一例です。

これまで文字として知覚してきたものが、無意味な図形の集まりのように見えてくる。その結果、文字として読めなくなる瞬間が訪れることがあります。

ああ、経験がある、という方も少なからずおられると思います。何故こういうことが起こるのか、については未解明な部分も多いそうです。

原因はともかくとして、今回の記事は、このことが実は習字にも関係してくるみたい、癖字を直す手がかりになるかも、というお話をするためのマエフリなのですが……、

次回に続きます。それではまた(^^)/