「文字の話」カテゴリーアーカイブ

草書の勉強中、また横道にそれる

硬筆書写検定1級では草書を書かせる問題があります。活字を見てその草書が書けないといけないんですが、この勉強がなかなか進みません(^^;

たまに思い出したように字典を開いて草書の形を確認し、少しく練習する日もあるのですが、習字をしているうちに字源の方に興味がいって横道にそれてしまう悪い癖があり、先日も――

201511男 三体『楷・行・草 漢字筆順字典』岡田崇花先生・編著より

「男」という字を調べていて、またまた漢字のなりたちの方が気になりだして、ペンを置いていつもの『常用字解』を開くことになってしまいました(しょうがないなあ)。

「田」んぼで「力」を出して働くから「男」――というのは子どものときに何かで習った気がするけど、女の人だって田んぼで働くときには力を使うぞ?これも、ただの俗説か?

白川博士の字解はどうなっているでしょう。

読んでみると、当然ながら「田」は田、まあ畑も含んで「耕作地」全般の意味になります(ちなみに「畑」は国字=日本で作られた漢字)。

問題は「力」の方ですが、これが――

201511力 甲骨

甲骨文字や金文をみると納得できるのですが、農具の「耒(すき)」の形からきているそうです。

「男」という漢字は 農地+スキ で耕作(者)の意味であり、さらに古い時代には、農地の管理者をさした――というのが白川博士の解説であります。

例の『漢字なりたちブック』でも――この小学生向けの漢字学習書は白川説をもとに編纂されているので当然ですが――同じ説明になっています。

201511男 なりたちブック『漢字なりたちブック 1年生』 伊東信夫 著

――農地の管理者かあ。性別をあらわすのが出発点じゃなかったんだなあ。

ところで、例の小学生用の漢字辞典ではどんな説明になってるでしょう。

201511男 漢字をおぼえる辞典『小学生のための漢字をおぼえる辞典』

「田で力しごとをする人」から男性の意味になったという、子どもの頃から聞かされてきた話がそのまま出てきました。

また、「力」の方はさらに違った説明になっています。

201511力 漢字をおぼえる辞典

「力」とは、腕の筋肉がもりあがった形だというんですが、私はもとの字を見て、力こぶのできた腕の形にはどうしても見えません(^^;

――この説明は『説文解字』に拠っていますね。

『説文解字』――後漢の許愼が著した中国最古の字書、というふうに学校で習ったと思います。文字学の聖典として二千年近く権威を保ってきたこの『説文解字』の誤りを、古代中国社会の多角的な研究を通じて次々に指摘していったのが白川静博士、というわけです。

小学生向けのこの辞典、漢字のなりたちについては旧態依然の説明も多く、まちがいも多いとされている『説文解字』に拠って漢字のなりたちを説明しています。そこを除けば、よくできた辞典だと思うんですが。

◇◇◇

ところで、大人気の白川学説ですが、批判をまったく受けない学説というものはありません。

字源の解説を、古代中国の呪術的世界観に求めすぎではないか、といった批判もあります。白川博士が言うような呪術の儀式の実在が確認されていない、なんてこともあるとかないとか。

白川博士の研究で漢字の字源研究がぐんと進んだのは間違いのない事実ですが、それでも、こういった研究というのは常に発展途上にあります。新しい学説に否定される部分が出てくる可能性は常にあります。それが学問の進歩というものですよね。

白川博士以後も、漢字の字源研究は進んでいるようです。今後、どんな新しい字源説明が出てくるか本当に楽しみであります(^_^)

いや~、漢字って

( ̄ー ̄)ゞわ、また性懲りもなく……。

それではまた~(^^)/

 

おはなしで学ぶひらがな

51歳でペン習字を始めてから、自分が長年、気づかぬままいろいろなクセ字を書いてきたことを知りました。以前お話しした「み」のほかにも……、

201511癖字の「ん」

「ん」はこんなふうに書いていました。ペン習字でこれを書いて、さっそく先生に直されました。

――(え?半世紀以上、この「ん」を書いてきたんだけど?まちがってたの?ショック……)

201511「ん」

左が、私の書いていた「ん」、真ん中は書写教育で教わる「ん」、右は大人のペン習字でよく出てくる、ちょっとシャープな「ん」です。

下半分の波のような形、が明らかに違いますね。私の「ん」は波の頂上がゆるやかですが、習字で教わる「ん」はとがっています。

言うまでもなく、私の「ん」は活字の影響を受けていました。

201511活字の「ん」左:ゴシック体    中:明朝体    右:教科書体

活字のような「ん」を書いていた私が、学校で先生に注意されたことは一度もありません。習字歴がなければ、先生たちにだって「活字の影響を受けた形」を書いている人がたくさんいたことでしょう。

それどころか、活字のような字こそ「美文字」なんだと思いこんでいる人も、今では少なくないかもしれません。

いつものように字典をみてみますと――、

201511かな字典「ん」二玄社『かな字典』

やはり、書道やペン習字で教えられている「ん」は伝統的な書体をふまえていることがわかります。活字のような「ん」も皆無ではありませんが、大部分はとがった波の「ん」です。活字の「ん」は一体どこからやってきたんでしょうね?

◇◇◇

ワープロなんてこの世になく、今と比べれば達者な手書き文を目にする機会も多かった時代に私は育ちました。

しかし、そんな世代の私でも、きちんと字を習わなかったために、活字めいた、手書き文字としては変な字を平気で書くようになっていたのです。

――子ども時代にちゃんと字を教えてもらっていればなあ。

ま、過去には戻れないし(^^;

それより、子どもたちに教えるときがきたら、ちゃんと指導してあげられないとなあ……そんな思いで書写教育関連の本をいろいろ読んできています。

そんな中から、ちょっと面白い本を紹介させていただきます。

201511ひらがな練習帳『なぞらずにうまくなる 子どものひらがな練習帳』

著者の桂聖(かつらさとし)さんは言います。

――多くの子どもは、ひらがなを上手に書く方法を習っていない。先生もその方法を知らない。いくつかのポイントを押さえて教えることで、どんな子でも短期間に上手にひらがなが書けるようになる。

小学生の低学年くらいのうちに、ひらがなが上手に書けるようになっていれば、こんなによいことはありませんね。

この本では、3段階に分けてひらがなの書き方を教えていきます。

ステップ1 読んで指でなぞる

201511「ん」ステップ1

ステップ2 文字のイメージをストーリー仕立てで覚える

201511「ん」ステップ2

ここが、この本の眼目ですね。お話仕立てで楽しく、文字のイメージが頭によく残ると思います。

ステップ3  リーダーの入ったマスの中で線をどう書くかを学ぶ

201511「ん」ステップ3

何度もご紹介してきている『こくご学習帳』と同じ体裁ですね。

「ん」なら3つのポイントさえ押さえれば、上手に書けてしまいます。

こんなふうに習って、幼いうちにひらがなが上手に書けるようになったら、その子は本当に幸せだと思いますねえ。

私も子ども時代にこんなふうに教えてもらえていたら……と、やっぱり思ってしまいます(^_^)

それではまた(^^)/

 

「道」にはなぜ「首」があるのか

このブログに掲載した写真の字の「しんにょう」の形が少しおかしかったということで、谷蒼涯先生が改めて書き方を教えてくださいました。目下、「道」という字で稽古を続けているところなのですが……、

201510道

きょうはその書き方ではなく、この漢字のなりたちについてのお話です。

◇◇◇

「道」を書いていると、思い出すことがあります。実はこれ、意外に怖い漢字なのです。

201510「道」なりたち

『常用字解(第二版)』白川静 より

日本、中国の古代文化、ひいてはひろく漢字文化圏全体の文化について多大な研究成果を上げたとして文化勲章を受けられた白川静博士によれば――

古い時代には、他の氏族のいる土地は、その氏族の霊や邪霊がいて災いをもたらすと考えられたので、異族の人の首を手に持ち、その呪力(呪いの力)で邪霊を祓い清めて進んだ。その祓い清めて進むことを導(みちびく)といい、祓い清められたところを道といい、「みち」の意味に用いる」 『常用字解(第二版)』より

「道」の「首」は、なんと文字通りの首だったのです(・×・;)))コワ~

◇◇◇

さて、こんな怖い漢字のなりたちを小学生向けの漢字辞典ではどんなふうに説明しているのでしょうか。

201510漢字をおぼえる辞典「道」

 『小学生のための漢字をおぼえる辞典(第四版)』

辶は道を歩くことを表し、首(シュ)がドウと変わって読み方と「長くのびる」いみをしめしています。『歩いてゆく道、すじみち』のいみにつかわれます」『小学生のための漢字をおぼえる辞典(第四版)』より

う~ん。わかったようなわからないような?

「首」がどうして「長くのびる」の意味になるんだろう?

「首を長くして待つ」なんて言い方はあるけれど、連想ゲームで「首」と言って直ちに「のびる」と答える人なんて、どのくらいいますかねえ?

古代中国で生まれた漢字には、当時の人々の呪術的な世界観が色濃く反映されています。現代の私たちからみれば、おどろおどろしい側面も存在します。そこから目を背ければ漢字という文字の体系的な理解はむずかしくなってくるでしょう。

そういうものは子どもたちの目から隠すべきだ――というような教育委員会的な(?)思いが、もしかしたら編者にはあるのでしょうか。長くのびる云々の説明はどうにも、苦し紛れのこじつけ、という感じがしてしまいます。

『漢字をおぼえる辞典』は小学生向けの漢字辞典として非常によくできていると思うのですが、このあたりの煮え切らなさが玉に瑕です。

◇◇◇

実は、白川博士の研究成果を全面的に採り入れた、小学生向けの漢字の学習書が出ています。

201510漢字なりたちブック2『漢字なりたちブック 白川静文字学に学ぶ』伊東信夫・著

小学校で習う漢字1006字すべてについて、小学生にも読めるように白川学説を紹介しています。学年別に6分冊になっています(セット販売もあり)。

この本で「道」がどう説明されているかと言うと……

201510漢字なりたちブック「首」『漢字なりたちブック 2年生』より

小学生向けに文はやさしくなっていますが、内容は同じですね。 あっぱれ!

近所の子どもたちにこういった説明をしてあげると、「えー、うそー!」「こわーい」「すごーい!」等々いろいろな反応がありますが、それぞれの漢字のもつこういった物語性には総じて興味を示します。一部の大人が心配するような(?)、ネガティブな反応は見られません。

子どもたちは、怖い話もけっこう好きなんですよね。そのなりたちの怖い部分も含めて学んだ方が、漢字の学習はより興味深く、おもしろいものになるんじゃないかと思う次第です。

いや~、漢字って

( ̄ー ̄)ゞ くると思ったよ(笑)

それではまた~(^^)/

 

書蒼27年10月号 漢字半紙

なかなかうまく書けず、ずいぶん書きました。

提出候補が最後に3枚のこりましたが、どれも一長一短でなかなか決めがたかったです。全体のバランスを見て、これがいちばんましかな、と思って提出することにしました。

201510山紫水明 提出分左:お手本 右:競書提出分

ツッコミどころはいろいろ(汗)。「山」のタテ線が長すぎる。「明」は大きすぎるのと、「月」の最初のヨコ線の右上がりがきつい――あとで写真で見るとアラがよく見えてきます(苦笑)

◇◇◇

投函した翌朝いちばんに背臨をしてみました。

201510山紫水明 手本と背臨1回目左:お手本  右:背臨1回目

「紫」の「糸」のタテ線からの左ハネ、また変な形になりました。「山」と「明」の問題はそのまま残っています。お手本のイメージがまだまだしっかり定着していません。この二点に特に注意して形臨、背臨をし、修正していきたいと思います。

◇◇◇

さて、先日の「明」に続き、「紫」もちょっと字典をみてみました。

201510書道字典 紫

『角川書道字典』

これも、今回のお手本の形がずらっと出てきました。古典作品では普通にみられる形なんですね。

上部の「此」もついでにみてみます。

201510書道字典 此

同じく『角川書道字典』から

お手本と同じ形がたくさん出てきました。

ところで、今回のお手本の形は現代日本では使われない?かというとさにあらず、こういう形で出てきます。

201510紫 行書『楷・行・草 漢字筆順字典』より

(岡田崇花先生・編著)

行書と書写体で、上の「此」が使われていますね。

◇◇◇

書写体というのは「標準的ではないが、一般に使われていた異体字」のことです。戦後しばらくまでは、こういう字体もけっこう使われていたようです。私が若い頃も、こういう字を書く大人たちがけっこう周囲にいたと思います。

201510紫の書写体いろいろな書写体

『楷行草 筆順・字体字典』 (江守賢治・編) より

書写体は、旧字体とともに硬筆書写検定の理論問題に出てきます。『硬筆書写検定1・2級 合格のポイント』によれば、1060字ほどになるようです。

2級では書写体を見てその楷書体を書く問題が、1級では活字を見てその書写体を書く問題が出ます。

201510書写体早覚え表

『ペン字精習 上』(狩田巻山・著)付録(三)より

これを見ると、どこかで見た覚えのある字もけっこうあります。「回」や「高」などの書写体は、今でもたまに見かけますね。

2級までは書写体も旧字体も読めればよいのですが、1級は書けなければなりません。一から覚えなけえばならない若い人にはなかなか大変なことだと思います。

それではまた(^^)/

 

「明」の来歴を調べてみる

漢字半紙の課題に四苦八苦していますε-(‐ω‐;)

201510「山紫水明」稽古中左:お手本 右:練習中

……が、きょうは書道そのものからは少し離れて、漢字のお話を少ししてみたいと思います。

◇◇◇

今回の課題「山紫水明」の「明」。普通にみる漢字と違って、偏が「日」でなく「目」になっていますね。

――あれ?先生、このお手本、字がまちがってますよ~!

あ~、調べもせずにすぐにそんなこと言っちゃ……、

だめよ~だめだめ

こういうときは、まずは字典にあたって、こういう書き方が古典の中にないか調べてみないと恥をかいてしまうかも(^^;

というわけで、過去に「明」がどんなふうに書かれてきたか、書道字典でみてみます。

角川漢字「明」『角川書道字典』

うは、なんと当たり前のように偏に「目」が使われているではありませんか。どうも元は「目」と書く方が普通だったようです。

――ふ~む。これはちょっと「明」の字の来歴について調べてみたくなるね。

ですよね~。みてみましょう。

201510常用字解「明」『常用字解(第二版)』白川静

漢字の成り立ちや、意味や形の変遷について調べたいとき、こんにち先ずお世話になるのはやはり白川静博士の文字学でありましょう。

ふーん、「目」の前は「囧」(ケイ)だったんですね。窓+月、が本来なのかあ。

半地下式の暗い住居に窓が一つ、そこから月明かりがさしこんでくる――人々はそれを神の訪れとみたてた。

――やっぱり白川博士はすごいなあ。でも、 「囧」が「目」になったあたりのことは書いてないね。

そうなんですよね。で、もう一冊、別の本にもあたってみました。

201510大系漢字明解「明」

『大系漢字明解』 高田忠周

これは篆刻をされる方の間ではよく知られた本のようです。著者は江戸時代末期生まれの書家・漢学者で、明治初期に活躍された方らしいのですが、ご覧のように、なんとすべて毛筆の手書きという、とてつもない労作です。

内容も「へえ!」の連続で、知人が持っているのを読んで欲しくなり、入手しました。

ありました。「囧(ケイ)が目に譌し」たとあります。「譌す」は「かす」と読み、「なまる」という意味になるようです。「囧」の代わりに「目」を書く俗字があとから生まれてきたとのこと。

というわけで、「明」の偏は元来は「囧」(ケイ)だったが、「目」と書く異字体が生まれ、さらに「日」と書く今の形も生まれた――という流れのようですね。

いや~、漢字って

◇◇◇

ちなみにこの「囧」という字、中国語圏のインターネットで顔文字として使われることがあるそうです。日本ではヒザと手をついてがっくりきた形として「Orz」と書き、「失意、がっかり感」をあらわすことがありますね。これが中国語圏では「囧rz」のようになるらしいです(^_^)

◇◇◇

閑話休題

さて、「明」の来歴がわかってきたところで、ついでに小学生向けの漢字辞典はどんな説明をしているか、覗いてみます。

201510小学字典「明」『小学生のための漢字をおぼえる辞典(第四版)』

「明」は2年生で習います。

「日と月を合わせて『明るい』ことをあらわす」――ふむ。白川博士の学説とは違いますが、まあ簡潔でわかりやすくはありますね。

――「山紫水明」の「紫」の方も、調べてみたいね。

そうですね、そっちもちょっと調べてみましょうか。

あ、こんなおしゃべりしてる場合じゃなかった!「山紫水明」の清書にもどらないと(‐ω‐;)

「紫」についてはまた後日ということで、それではまたε= (*ノ´▽`*)ノ