古筆をまなぶ 2 高野切第三種 965 ありはてぬ

前回は歌番号940を学びました。順番では今回941ですが、『書蒼』12月号で965が初段~四段の課題になっているので、先にそちらの内容をみておきたいと思います。

◇◇◇

今回はカメラでなく、スキャナーで取り込んでみました。 かな用の半紙にこんなふうに臨書しているのですが――、

高野切201511-番外『書蒼』12月課題 半紙まるごと

かなり接写しても、ほとんど線が見えないようなところがあったりして、カメラではどうもうまく撮れません。それがスキャナーだとこんな感じになります。見やすくなったと思います。

高野切201511-番外『書蒼』12月課題 自習965-1左:お手本  右:形臨

(文字をなるべくくっきり浮かび上がらせるためにモノクロに加工しています)

では読んでいきます。変体仮名の読み方を一緒に覚えていこうという方は、まずは頭から読んで、読めないところをチェックしておいてくださいね。

◇◇◇

最初の「ありはてぬ」は問題ないですね。その次の「い」も読めます。問題はその次、これは――、

変体仮名007能

「み」かな?と思ってしまいそうですが、「能」を字母とした「の」です。よく出てくる変体仮名です。

その次の「ち」は読めます。

「いち」(いのち)となります。

次の字は「ま」ですが、その次の字が読めず、そのあとの四文字は読めて、こうなります。

「ま(?)まのほと」

変体仮名008徒

これは「徒」を字母とした変体仮名で、読み方は「つ」です。よく出てきます。

というわけで――、

「ままのほと」(まつまのほと)

次は二字、変体仮名が続きます。

変体仮名009多尓

これも、どちらもよく出てくる変体仮名で、上が「多(た)」、下が「尓(に)」で、「たに」。

2行目の最初の字「も」と合わせて――、

多尓も」(たにも)

ここまで、通して書いてみます。

ありはてぬ いちままの ほと多尓

ありはてぬ いのちまつまの ほとたにも

続いて「うき」は読めますが、続く部分――、

連綿こと

ここは変体仮名はなく、連綿(続け書き)を見慣れている方なら問題なく読めると思います。

「うきこと」ですね。

「こ」の二画目がそのまま「と」の一画目につながり一体化しているため、「こ」の一画目が「ゝ」(おどり字)のようにも見えます。「こと」はこのパターンで書かれることがよくあります。

続く部分は、しばらく読めますね。通して書いてみると――、

うきことしけくおもは(1)(2)(3)(4)

わ、終わりにきて四文字すべて変体仮名!

財津一郎きびしい

これは試練かもしれん……なんちゃって(*´Ο`*)/

変体仮名010春毛可那

まず(1)――、

変体仮名012春

これは「春」が字母で、読み方は「す」になります。ちなみに下が「春」の草書体です。

草書「春」

草書「春」『楷・行・草 漢字筆順字典』(岡田崇花先生・編著)より

私は 「す」と「て」の連綿のような形は「春」→「しゅん」→「す」 というふうに覚えました。

次が――、

変体仮名013毛可

(2)(3)は連綿で線が一体化しているので、いっしょに示します。

上の方は「毛」が字母の「も」。字母のイメージがよく残っているのでわかりやすいと思います。

問題はその下。これは「可」(か)です。前回、こんなパターンで出てきています。変体仮名004可し

これは「可し」でした。一画目のヨコ線がテンのように書かれて、下の部分がクルッと右回りする気分で書かれ、そのまま「し」につながっていってます。

もういちど『かな字典』をみてみると――、

2015111かな字典「か」

単独だと「可」の一画目のヨコ線がテンのように書かれますが、このテンのような線が、上の字から来る連綿線と一体化してしまうことがよくあります。すると、今回のような見え方になります。

かな字典をみても、「う」や「の」のように見えるものがありますが、古筆に出てくる「う」や「の」を見慣れると、それらとは形が全然ちがいますので、混同はしないだろうと思います。

というわけで、ここは

毛可」(もか)

最後(4)は――、

変体仮名014那

これも前回、出てきました。

変体仮名005那み多

これは「那み多」(なみた)でした。この「那」がここでも登場しています。

これで最後の四文字が判明!

春毛可那」(すもかな)

では、全体を通して書いてみます。

ありはてぬ いちままの ほと多尓

も うきことしけく おもは春毛可那

ありはてぬ いのちまつまの ほどだにも

うきことしげく おもわずもがな

ありはてぬ 命待つ間の ほどだにも

憂きことしげく 思わずもがな

(語釈)

「ありはてぬいのち」 いつまでもあることのない命

「~だにも」 ~だけでも

「~もがな」 ~であればいいなあ/~であってほしいなあ

(意味)

いつまでも生きられはしない(この)命が終わるまでの間だけでも、嫌なことをしょっちゅう考えずにいたいものだ。

宮地潔興(みやぢのきよき)作。

このあとの966の和歌に詞書(ことばがき)――その歌が詠まれた事情や背景などを述べた言葉――があり、「宮仕へ」を「解けてはべりける時によめる」とあります。官職を解かれて失意のうちに詠われた歌なのですね。

◇◇◇

ありはてぬ命

平安時代の貴族の平均寿命は、男性が33歳、女性が27歳くらいだった――などと言われています。乳児死亡率が高いと当然ながら平均寿命は短くなるので、なかには長命の人もいたわけですが、40歳をすぎればもう老人と意識されていたとか。

大人になればもう、死はそう遠くないところにあったわけですね。命をありはてぬはかないものとして慈しむ気持ちは、現代人よりはるかに強かったことでしょう。

みずの古筆

おつかれさまでした。それではまた(^^)/