書道史を学ぶ 10 古代の肉筆

小テスト

すべて硬筆書写検定1級・準1級で実際に出題された問題です。

(問題1)上段の作品の筆者(伝承を含む)を下段から選んでください。

1 書譜   2 粘葉本和漢朗詠集      3 寸松庵色紙

A 紀貫之  B 藤原行成  C 孫過庭  D 智永

(問題2)次の文章で、正しいと思うものには○、誤っていると思うものにはXをつけてください。

1 『十七帖』は王羲之の書いた手紙を十七種類集めた変化に富んだものである。(   )

2 平安初期の嵯峨天皇、空海、最澄は日本三筆と呼ばれた。(   )

3 落款とは落成款識の略で、作品に書名・押印することをいう。(   )

正解は最後に掲載します。

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日常の文字

始皇帝の定めた小篆は曲線的な点画が多く、日常もちいるには書き方の面倒な文字でした。そのため、ふだんの筆記には、小篆を速書きした隷書(れいしょ)や草書が用いられていました。

古代の肉筆資料 木簡・竹簡

紙の発明以前、また紙が発明されてからもしばらくは、中国ではふだんの書写の材料として木の札や、細長い竹を薄く削ったものやを使っていました。これらを木簡竹簡(もっかん・ちっかん)とよんでいます。

木簡・竹簡は20世紀初頭に西部の楼蘭で発見されて以来、各地で大量に出土し続けています。時代は戦国期(前5世紀)から晋代(3世紀)まで700年近くにわたります。

現存最古の『曾侯乙墓竹簡(そうこういつぼちっかん)』は始皇帝が文字を小篆に統一する前のものですが、すでに篆書から隷書へと移行する傾向がみえます。

201606曾侯乙墓竹簡『曾侯乙墓竹簡』

篆書の特徴である左右相称的な構造がすでに崩れ始めている

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秦から漢へ

さて、始皇帝の治政は、その偉大さが称えられる一方で種々の苛政があったのも事実で、軍事活動や土木工事に多数の農民を徴用した結果、農業生産は萎縮し、一家離散や餓死などが相次いだといいます。

農民の不満が高まる中で始皇帝は前210年、行幸先で死去します。死後に擁立された二世皇帝は暗愚な人物で、秦は凋落の一途をたどり、前206年、治世わずか15年であっけなく滅亡してしまいます。

秦末の反乱では多くの群雄が並び興りましたが、秦の滅亡後に二大勢力として天下を争ったのは楚の項羽と漢の劉邦でした。まず項羽が覇権を握りますが、やがて漢の劉邦に滅ぼされます。

前202年、劉邦は都を長安(現・西安)に定めて漢王朝を創始します。

秦以後、もっとも長命だった漢王朝

漢は前202年から紀元220年まで、約400年の長きにわたって中国に君臨し、理想的な王朝と称えられました。そして、漢字・漢文・漢籍というように、王朝名がそのまま中国をあらわす語となりました。

紀元8年に外戚の王莽(おうもう――真ん中の「大」は「犬」と書かれる)が皇帝位を奪って新という王朝を建てます。ここまでを前漢とよびます。新は紀元23年には滅ぼされ、25年に漢は復興、それから三国時代に入る紀元220年までを後漢とよんでいます。

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波磔について

201606曹全碑

これは隷書の碑の中でも「神品」といわれる『曹全碑(そうぜんひ)』(後漢末期)の一字です。このような、横画の収筆部分にみえる三角状の払いを波磔(はたく)とよびます。

波磔のついた隷書を八分隷(はっぷんれい)とよび、波磔のないものを古隷(これい)とよびます。

古来、前漢の隷書は波磔のない古隷であるとされてきましたが、『居延漢簡(きょえんかんかん)』などの発見により、波磔をもつ八分隷は前漢時代にも存在していたことが確認されました。

201606居延漢簡

『居延漢簡』(紀元前後)

波磔の由来について、『書の歴史 中国編』(伏見冲敬・著)ではこう述べられています。

(26頁)「隷書の波勢の由来について、私はまだ適解を得ぬが、筆の性能の変化と、執筆法、殊に筆を構える角度に関係なしには考えられない。私は木簡を書く時はわが国で昔、短冊を書くような構えであったため、こうした筆勢をとるようになったのではないかと考えている。

左手に木簡を立ててもち、筆を直角にあて、縦にはしる木目の摩擦に抵抗するように書くことから生まれてきた払い方ではないか――ということですね。

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さて、さらに、行書や草書も前漢時代にはすでに存在していたことが『尹湾簡牘(いんわんかんとく)』などの発見によって確認されています。

201606尹湾簡牘

『尹湾簡牘(いんわんかんとく)』(紀元前後)

このように、西暦紀元前後にはさまざまな書体が出現しています。しかし――楷書の登場までには、まだ数百年を待たねばなりません。

古くは、隷書からただちに楷書が生まれ、楷書がくずれて行書、さらに草書が生まれたものと考えられていました。しかしこれが事実でないことは現在、完全に論証されているということです。

私もペン習字を始めてからそれを知り、ちょっと驚きました(^_^;

次回は、漢代の隷書をみます。

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きょうの自運

20160630ペン自運「ジューベール」

硬筆書写検定の解答用紙(コピー)に書いています。

※ジョセフ・ジューベール 18~19世紀フランスの哲学者・随筆家

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小テスト解答

(問題1) 

  1. 書譜 ―― C 孫過庭
  2. 粘葉本和漢朗詠集 ―― B 藤原行成
  3. 寸松庵色紙 ―― D 紀貫之

(問題2) 

  1. (   X    )   こちらを参照
  2. (   X  )     X 最澄 → ○ 橘逸勢(たちばなのはやなり)
  3. (   ○  )