文字が図形になる瞬間(2)脳内イメージを上書きする

一所懸命お手本をまねて書くうちに、徐々に徐々に、お手本に近い字が書けるようになってきます。

この過程で、私たちの脳の中ではどんなことが起こってるんだろう?と考えていた時期がしばらくあります。

もちろん、ない頭でいくら考えたって何もわかってはきません(笑)。脳科学研究の最新の知見について研究者が一般向けにやさしく書き下ろしてくれた、こういう本に教えを乞いつつ、考えてみたのです。

東大で脳研究をされている池谷祐二先生の著作。一般向けにわかりやすく面白く書かれていて、おすすめです。

『脳には妙な癖がある』
『受験脳の作り方―脳科学で考える効率的学習法』
『のうだま―やる気の秘密』

こうして見えてきたのは……、

人は誰でも、脳内に自分なりの文字のイメージというものを持っている。字を書くときには、この脳内イメージを参照しながら書いている。

子供より大人、大人の中でも中高年ほど、つまり長く字を書いてきた人ほど、そのイメージは強く染みついています。お手本を無心に写しているつもりでも、人は脳内のその文字イメージの影響から完全に自由にはなり得ない。言い換えれば、長年の間にしみついた癖がどうしても出てきやすい、と。

201509脳内イメージそのため、癖は一朝一夕にはぬけず、お手本に近い字が書けるようになるまでにはそれなりの期間を要します。

お手本をよく見て(新しいイメージを脳に入力して)、まねて書く(入力した新しいイメージを出力する)ということを何度も何度もくりかえす必要があります。

そうすることで徐々に脳内イメージが上書きされていき、結果として字が変わってきます。

この「出力する」というところが肝心なところです。新しい記憶を脳に定着させるには入力だけではダメで、「くりかえしの出力」が必要なのだそうです。

脳の記憶容量には限りがあるため、重要な情報を優先して残そうとするそうです。脳は、それを入出の頻度で判断するというのです。何度も何度も出入りする情報=大事な情報というわけですね。

習字で私たちの脳は、脳内の(世の中で上手とは見なされない)字のイメージを、先生が書く(世の中で上手と見なされる)字のイメージで上書きしていく作業を続けていく、と。

はやく上達するための道筋がこのへんから見つかるかもしれません。

第一にすべきことは、お手本をよく見る=新しいイメージを脳に入力する、ことでした。

しかし、無心に観察しているつもりでも、人間は自分の脳内にある文字イメージから完全に自由になることはできないわけです。脳に支配された人間の悲しさよ(-_-)

ならば、少しでも影響を小さくしたいぞ!( • ᄇ• )ﻭ✧

そのヒントになるのが、前回マエフリとしてお話をした「ゲシュタルト崩壊」ではないかと。ここでやっとお話がつながるのであります(^_^)

つまり、お手本の字を字として見ていると、どうしても脳内の文字のイメージの干渉を受けてしまう=癖が出やすい。そこで、字でなく意味のない図形のように見えてくるまで、じっと見つめ続けてやろう、というわけです。

お手本を見るときは、ゲシュタルト崩壊をあえて起こす。そのくらい、じっくり、じーっと見つめてみる。首尾よくゲシュタルト崩壊が起こると、お手本の字が意味を持たない形や線を集めたものに見えてきます。

その、現れてきた形や線をスケッチするように書く、いや、描く、というわけです。

というわけで、『書蒼』のお手本の中の或る字をじっと見つめてゲシュタルト崩壊を起こしてみたところ、こんなイメージが現れてきました。さて何の字の一部でしょう?

201509意味のない図形1

 ――わかった!簡単じゃん(笑)

ばれました?答えは次回に。それではまた(^^)/