古筆をよむ 11 寸松庵色紙 46 むめのかを(4) 脱字(?)の問題

見つかりました。平安時代に「むめ」「むま」と表記された「梅」「馬」、これらの発音が[mme][mma]だったということを、この本を読んで私は知りました。

img813

『ことばの歳時記』(金田一春彦・著)より

昭和46年(1973年)初版ということですから、相当なロングセラーですね。

「梅・馬」は万葉時代には「ウメ・ウマ」だったが、平安朝になって「ンメ・ンマ」に変化し、そのあと近年になってまた若い人の中に「ウメ・ウマ」と発音する人が増えた――とあります。

私なども「んめ」世代ですが、この本を読むまでは自分は文字どおり「うめ」「うま」と言っているものと思っていました。

でも気をつけて自分の発音を観察してみると、たしかに『んめ』と言っているんですね。表記とは違った発音をしていても人はなかなか気づかないものなんだなあ――と思ったものです。平安びとが「んめ」と言いながら「むめ」という表記に疑問を抱かなかったのも当然ですね(^^)

◇◇◇

では、『寸松庵色紙』古今和歌集46をよんでいくことにします。

ようやく(^_^;

201604-1寸松庵色紙46

ここまで一緒に変体仮名を勉強してこられた方は、まずはすべて自力で読んでみていただきたいと思います。

『高野切』や『粘葉本和漢朗詠集』などとは書きぶりが違うとはいえ、未習の仮名は一つもないので、ほとんど読めてしまうはずです。

◇◇◇

201604-1寸松庵色紙46-1

めのを」(むめのかを)

201604-1寸松庵色紙46-2

うつして」(そてにうつして)

201604-1寸松庵色紙46-3

「とめたら」

201604-1寸松庵色紙46-4

者春久とも」(はるはすくとも)

私は「春」のところで一瞬だけひっかかりましたが、頭の中で線を追ってみたらすぐに「春」とわかりました。読みにくい字も頭の中で、または指で線を追って書いてみると案外すっと読めてしまうことがあります。

201604-1寸松庵色紙46-5

たみ万志」(かたみならまし)

散らし書きのご紹介ということで今回はこれを取り上げましたが、よみは特にむずかしくはなかったと思います。

むめのかを そてにうつして とめたら(ば)

はるはすくとも かたみならまし

梅の香を 袖にうつして とめたら(ば)

春は過ぐとも かたみならまし

(語釈)

かたみ  ふつう漢字では「形見」と書かれます。亡くなった人・別れた人を思い出すよすがとなる物。

語源には「片身」説というのもあり、人が別れるときに一つの物を半分にして、それぞれ「片身」を持ち合って相手を思い出すよすがとしたことから――と説明されます。

~ならまし  なるだろうに

(意味)

梅の香りを袖にうつして留めておいたなら

春はすぎゆくとも(香りが春を思い出す)よすがとなるだろうに

201603梅の香

平安びとの梅への愛は本当に深いものがありますね。やっぱりご先祖様ですね(^^)

◇◇◇

さて、また長くなって申し訳ないのですが、ここでは終わることができません。まだ一つ、考えなければならない問題が残っています。

「とめたら」のあとの一字は本当に脱字なのか

この散らし書きでは三句目、本来なら五文字で「とめたらば」と書くべきところを「とめたら」としか書いていません。古文としても、五七五七七の和歌のリズムとしても変ですよね。

この部分は脱字だと簡単にすませている解説書が多い、というか私がよんだ何冊かの本はみなそれで通り過ぎているのですが、これは本当に脱字なのでしょうか?

行書きの古筆の中には、筆写の際にうっかり脱字をしている例や文言が変わってしまっている例が見られるのは事実です。

しかし、この散らし書きの作者がいかに繊細に布置・字配りを考えてこれを書いているかを最初にみましたよね。こういう人が「うっかり脱字」などするものでしょうか?

もう一度この写真を見てください。

201604-1寸松庵色紙46解説1

この散らし書きの構成をみると、「とめたら」の下にもう一字を入れると行末を結ぶ曲線の形が崩れて台無しになります。だから「たら」の下に一字を入れるつもりで書き忘れた――という可能性は考えにくいです。

とすると、三行目の行頭の「盤(は)」が「とめたらは」の「は」なのであって、次の「はる」を書く際に一字目の「は」を落としてしまった?――という可能性も……あるでしょうか。

でも、「はる」の「は」をうっかり書き忘れる?これだってちょっと、いや、かなり考えにくいことですよね。

そこまで考えて、ハッと思いついたことがあります。

 とめたら→は→るはすくとも

この「は(盤)」は、二字つづく「は」の両方を兼ねているのではないか?

和歌に「掛詞(かけことば)」という技法がありますね。

花の色は うつりにけりな いたづらに

わが身世にふる ながめせしまに (古今和歌集113)

百人一首に所収された、小野小町の、あまりにも有名な歌です。学校の古文の時間に掛詞の例としてよく挙げられる歌だと思います。「ふるながめ」が掛詞になっています。

世にふるながめ(この世で時を過ごす、その眺め)

ふるながめ(降る長雨)

これと同じように――

とめたら は るは

一字で両方の「は」を兼ねた、そういう技法なのだと考えると、初めて納得がいくような気がします。

もちろんこれは単なる思いつきで、そう確信できる材料は何もなく、気分はもやもやしています(苦笑)。私自身は、他にこのような例をみたことがありません。同じような例がいくつかでも見つかれば面白いことになるのですが。

あなたはどう思いますか?

こういう技法(?)を使っているものが他にもあるのだろうか?古筆をいろいろよんで探していきたいと思います。古筆を楽しむネタがまた増えました(^^)

◇◇◇

長くなっていますが、もう少しだけおつきあいください。

( ̄ー ̄)ゞ 開き直ったな(笑)

この歌は『高野切第一種』の方でも取り上げられています。参考までにご紹介しておきます。

これも既習の仮名ばかりなので、まずはぜひ自力で通読してみてください。

201604高野切第一種「むめのかを」

むめのを そて とゝめては

るはくと ならまし

『寸松庵』では「とめたら(ば)」になっている部分が、こちらでは「とどめては」になっています。手元にある古今和歌集の解説書もみなこの形になっています。これだと「とどめておくことができたら」のような意味になり若干ニュアンスが変わります。

ここでは「无」を[mu]でなく[mo]と読む例が出てきました。「无」には[mo]の読みもあること、忘れないであげてください(^^)

◇◇◇

「むめ」の問題から「ん」の変遷まで、いろいろ詰め込んだせいで長々と4回の連載になってしまいました。大変お疲れ様でした。

37字を勉強したあと、なかなか新しい変体仮名が出てきません。でも37字がわかるだけでもけっこう読めてしまうものですね。古筆の勉強って意外に労力対効果が高いかも(^^)


■■■ 草書学習記録 4/4(月) ■■■

21日目の48字テスト。

20160404草書学習1

 縛  博  専  特  守  尊

 四  駕  加  驚  敬  馬

 禾  高  尚  将  得  罵

 浄  争  府  付  朗  稿

 預  務  茅  矛  事  静

 姪  室  握  屋  至  柔

 致  言  盛  成  窒  到

 源  原  減  感  咸  誠

「埼・崎・奇・河・何・可」の6字を学習。通算132字。

20160404草書学習2


それではまた(^^)/