古筆をよむ 9 寸松庵色紙 46 むめのかを(2) 「むめ」はどう読まれたか

『寸松庵色紙』の古今和歌集46をよんでいくのですが、その前にちょっとかたづけておきたい問題があります。

201604-1寸松庵色紙46「无め」

この部分の読みについて、です。

最初の、現代人なら「ん」と読むこの字の字母は「无」で、「無」の異体字ですから読みは「む」です。したがって今のひらがなで書くと「むめ」になります。それでブログタイトルも「むめのかを」としました。

しかし、平安びとはこの「むめ」を文字どおり[mume]と読んでいたのでしょうか。「むめ」とは「梅(うめ)」のことなんですが、平安時代には梅を[mume]と言っていたのでしょうか。この問題について考えてみたいのです。

例によってちょっと長くなります(^_^;

◇◇◇

古筆をよんでいきますと、たびたびこの字に出会います。

201602-1高野切第一種48-1-2「ん」

現代文の中でこの字を見れば、誰でも迷うことなく

――「ん」

と読みますよね。

ところが、この「『ん』と読む」というのが、実は言うほど簡単なことではありません。

もし、外国人(※)にこの字を見せられて「どう読みますか?発音してみてください」と言われたらどう答えますか?

(※)「外国人」 ここでは、(国籍に関係なく)日本語以外の言語を母語とする人、の意味で使っていきます。

――「」です。「」。

んー、この答えでは悩んでしまう外国人が多そうです。ここで発音されている二つの「ん」は、その外国人の母語では同じ音とは認識されない可能性があるからです。

――「ん」って、後ろにどんな音がくるかで発音が違うんだよね。たとえば「んです」のように後ろに[d]の音がきたときの「ん」と、そのあとの「ん」のように単独で発音されたときとでは音が違う。

ピンポ~ン!そうなんです。

ただ、ここで「音が違う」というのも言うほど簡単なことじゃなく、厳密には「(日本語と違って)違う音として認識する言語がある」(多い)ということなのですが、話が長くなりすぎるので、そこには踏み込みません(^^)

書道とは関係のないお話かもしれませんが、「むめ」を平安びとは実際にはどう読んでいたか、気になりますよね。それを考えるマエフリとして、そもそも「ん」ってどんな音なのか、ちょっと確認しておきたいと思います。

◇◇◇

外国人が、

――ワタシワ キノー ニホネ/ニホンネ キマシタ。

というような言い方をするのを聞いたことがありませんか?

母語が英語でも中国語でも韓国語でも、こういう言い方をする人が実はけっこういます。

日本人(日本語が母語の人)が聞くと「ニホネ/ニホンネ」のところが変ですよね。どうしてこういう発音になってしまうんでしょうか。

これは、その人が日本語の「ん」=[n]と覚えて、常に「ん」はその音なんだと思っている場合に起こります(そう思うのは普通のことです)。[n]は舌先を上歯茎の裏につけて出す音ですが、これをやって、そのあとすぐに「へ」[e]を続けると[n+e]で[ne]あるいは[nne]という発音になってしまうわけです。

「ワン」「アウト」が「ワンアウト」でなく「ワンナウト」になるのと同じ理屈です。

このことから、後ろに[e]などの母音がくるときに「ん」を[n]で発音すると日本語らしくない発音になってしまうことがわかります。

「ん」+母音 

このとき、「ん」は鼻母音(びぼいん)とよばれる音になります。

鼻母音とは

口と鼻は奥でつながっていますよね。母音アイウエオは、鼻につながる通路を閉じて、鼻に息がもれないように発音します。ア、イと発音してみると、息は鼻にもれず、口からすべて出ていることがわかると思います(よくわからないという方は、鼻をつまんでア、イと言ってみてください)。

次に、鼻につながる通路をふさがず、鼻に息をもらしてア、イと言ってください。「んあ、んい」というような音に変わりますよね。「んが、んぎ」と書いた方がいいような音になっているかもしれません。

これが鼻母音です。

「日本へ」(にほんえ)のように後ろに母音がくるとき、日本人は「ん」をこの鼻母音で発音しています。

外国人の友達で「ニホネ/ニホンネ キマシタ」と言ってしまう人がいたら、「ん」を[n]で発音するのをやめて――つまり舌先を上歯茎の裏につけるのをやめて下におろして――息を鼻の方にもぬいてやるようにすれば日本人のような発音になるよ、と教えてあげてください(^^)

◇◇◇

というわけで、「ん」は置かれた環境によっていろいろな発音で読まなければならない、外国人にはちょっとメンドクサイ字だということがわかりました。

もう一つだけやってみましょうか。

日本人のかたは「ん」を発音しているときの自分の唇に意識を集中して、次の文を読んでみてください。

にほばしであも買った。

3つの「ん」、すべて唇がいちど閉じる[m]の音になっていたと思います。つまり

→ [b][p][m]の前で「ん」は[m]と発音される

ことがわかります。

◇◇◇

日本人はふつう意識していません(意識する必要がない)が、こんなふうに後ろにくる音によって「ん」はいろいろな発音になります。

他の音の前ではどうなるか、これは長くなりすぎるので省略します。興味のある方は「撥音の発音」――はつおんのはつおん(^^)――などと打って検索してみてください。

◇◇◇

さて、マエフリが終わりました(^^)

201604-1寸松庵色紙46「无め」

では、この「无め」を平安びとがどう読んだか、という問題にもどります。

先に結論を書きます。

これを平安びとは「んめ」と読みました。

――えっ?でも「ん」で始まる単語なんてないよね?

はい、いちおうそういうことになっていますよね。シリトリで「ん」で終わる言葉を出したら相手が答えられないということで負けになります。でも実際には――、

今でも世代によっては「梅」や「馬」を、「うめ」「うま」と書くよりは「んめ」「んま」と書いた方がよさそうな発音をしている人がいます。でも「ん」で始まるようには書かない、というお約束になっているだけです。

私なども会話の中で常に文字どおり「うめ」と言っているかと言えば、「う」をはっきり響かせず、「んめ」と書いた方がいいような発音になっていることが多々あると思います。

――「んめ」「んま」と書くとして、どんな発音になるの?

さきほど書いたように、

「ん」+[m]

のとき、「ん」は[m]になりますから、[mme]、[mma]ですね。

◇◇◇

ここにたどりつきたいがための、ちょっと長いマエフリなのでした(^_^;

201604-1寸松庵色紙46「无め」

これを平安びとは[mme]と読んだ(「梅」はそういう発音だった)そうです。

でも、平安びとの意識としては文字どおりに読んでいるつもりだったのです。

――どういうこと?

明日に続きます。


■■■ 草書学習記録 4/2(土) ■■■

19日目です。まず48字テスト。

20160402草書学習1

 日  寺  鶴  鳩  九  鷺

 等  持  侍  詩  言  時

 縛  博  専  特  守  尊

 四  駕  加  驚  敬  馬

 禾  高  尚  将  得  罵

 浄  争  府  付  朗  稿

 預  務  茅  矛  事  静

 姪  室  握  屋  至  柔

そのあと6字「言・盛・成・窒・到・致」を学習。

20160402草書学習2

「言」はちょっと前に既習でした。さっそくだぶってる(^_^;

稽古時間はご覧のとおりです。通算120字。


それではまた~(^^)/