古筆をよむ 8 寸松庵色紙 46 むめのかを(1)

硬筆書写検定の準1級・1級の自由作品問題は和歌を選ぶと決めて勉強中です。

和歌の作品構成は、『高野切』のような行書きではなく、「散らし書き」とよばれるスタイルになります。

201604-1寸松庵色紙46

『寸松庵色紙(すんしょうあんしきし)』より

散らし書きの構成は非常にバラエティに富んでおり様々なスタイルがありますが、『寸松庵色紙』の古今和歌集46を書いたこの作品が代表的な例として紹介されることが多いようです。

検定の受験対策としては、構成はこの作品に倣(なら)い、書きぶりは臨書の勉強をしている『高野切第三種』に倣うことにしています。

今回は、まず46の散らし書きの構成についてみていきたいと思います。歌の内容にものちほどふれますが、あすは別の内容を予定していますので、そちらはあさって以降になる予定です。

◇◇◇

タテ12.5cm、ヨコ11.4cmほどのこじんまりとした作品です。ほぼまっすぐに書かれた行書きを見慣れた目には、行頭も行末もそろえない奔放な書き方が新鮮に映ります。

201604-1寸松庵色紙46解説1

行頭は高く始まり、強い傾斜で下がっていき、最後にまたぐっと上がっています。行末も変化しますが、行頭と違ってその傾斜はゆるやかです。

同時に気づくのは――、

201604-1寸松庵色紙46解説2

文字がだんだん右下に流れていっているところです。最初の行は微妙ですが、行が進むほど傾きは増していき、最後の「志」の前の一行は、かなりの傾きになっています。

ただ、こうして右にどんどん流れていきますが――、

201604-1寸松庵色紙46解説3

個々の字をななめに倒して書いているわけではありません。字はまっすぐ立ったまま、中心軸をずらしていくことで右への流れをつくっています。

文字列がこのように右に流れていくのは、連綿の手法に関係しています。

201601『書ける!かな書道』連綿の手法

『書ける!かな書道 基本から創作へ』

(谷蒼涯先生・著)より

漢字の草書体から生まれた仮名は、漢字同様に左から右、右から左下、そして右下へ、という流れで書かれます。

仮名も、漢字のようにまっすぐに粒書きしていく場合は、青線で示したように筆が移動することになりますが――

201604連綿解説1

速書きをしたい場合は、筆のこの移動距離を短くする工夫が必要になります。

201604連綿解説2

下の字を右にずらせば移動距離が縮まり、さらに筆を上げないまま動けば(続け書きすれば)書く速度がぐっと上がります。

ですから一つには効率の問題ですね。右に流すことで、さらさらと速く書けるようになります。速く書こうとすると、文字列がだんだん右に流れていくという次第です。

しかし、いくら効率がよいとはいっても、行書きでは仮名を行末まで右に流していくようなことはしません。

一例を挙げると――

201603-2高野切第三種978-7

「い→ひ→け→る」と徐々に右に流れていっていますが、「を」で流れをぐっと引き戻しています。

次に「を」の収筆を短くする(変形法)ことで「利」(「わ」のように見える字)を真下に置き、まっすぐの流れを維持しています。

「利」から「に」でも中心移動はせず、「利」をほとんど変形もさせず、連綿線が長くなるのをいとわずに「に」の本来の始筆位置まで筆を運んでいます。速度よりもまっすぐの流れを維持する方を優先しようという書き手の意思がみてとれます。

このように、行書きの中でも右への流れが一瞬おこることがあるのですが、こうして言わば「力技」で漢文のようなまっすぐの流れに戻されます。

しかし、まっすぐ書きたいけど粒書きだと遅い――というなら、折衷案として、続け書きするにしても二字くらいにおさえておけばよさそうですよね。そうせず、行書きでも長い連綿で書くことがあるのはやはり、動きを感じさせる連綿線に美しさを感じるからでしょう。

対して散らし書きは、「力」で仮名の流れを制御しようとしない書き方、といえるかもしれません。仮名の自然な流れを無理に止めない、肩の力をぬいた書き方のようにみえます。

しかし、この作品で徐々に右への傾斜が強められていくあたりをみると、右への流れを誇張して演出する意図がありそうですよね。ただ自然に任せているわけでもなさそうです。

私は、羊飼いが力づくでなくやんわりと、羊たちをある方向に誘導する様子を思い出してしまいました(笑)

201603羊飼い

力で強制することなく羊を誘導する羊飼い――ヒツジかわいい(^^)

線は色紙の外でいつか合流する?

この線の流れをみて私が感じるのは、一本の幹から分かれて伸びる枝のイメージだったり、合流していく川のイメージだったりしますが――、

201304散らし書きイメージ

この線には、色紙の外のどこか一点に向かって流れていっているのかな?と思わせるような「動き」を感じますよね(^^)

201604-1寸松庵色紙46解説4

そう、動きを感じます。石に刻まれた漢文の荘厳さなどとはまったく好対照で、日本の古筆、特に散らし書きには軽やかな動きがあります。それは何か自然の情景を観ているようでもあり、しみじみとした情趣が胸にしみこんでくるのを感じます。

◇◇◇

それから、字の大きさや太さ、墨の濃淡がいろいろに変化する――というのは古筆全般に言えることですけれども、散らし書きの場合は行書き以上にそのへんに神経が使われている気がします。上下左右に同じ調子の字を配置しないことにもかなり腐心しているように感じられます。

たとえば、一行目の「无」(「ん」に見える字)は、その高さ、大きさがすごく特徴的だと思われませんか?最初にみたとき、こんなに大きい「无」もあるのかと私はちょっと驚きました。

他の古筆切の「无」と大きさを比較してみます。

201604寸松庵色紙の「无」『かな字典』(関口研二・著)

この字典は字が原寸大で掲載されているのでこんなときにとても役立ちます(^^)

『寸松庵色紙』の「无」を見ると、他に比べてかなり大きく背が高いようです。『寸松庵』は『高野切』などに比べると全体に字が小ぶりなので、この「无」の大きさは特に目立ちます。異様、といってもよいくらいです。

これ、左隣に「う」がくるからなのでしょうか。同じタテナガ系の字を同じような大きさで並べるのを嫌った?

もちろん確証などありませんが、この「无」の異常と思えるほどの大きさをみると、そういう計算であえて大きく書いたのでは?などと想像してしまいます。

もしそうだとすると、「无」の左隣に「う」がくることを書き始めの時点で想定していたのでしょうか。何度か書いて試行錯誤した上で最終的にこの構成に仕上がった――ということかもしれませんが、頭の中で構成を考えて一発でこれを書いたというなら、天才的!というしかありません。

――千年前の能筆たちの筆意、どんな考えで、どんな狙いをもって書いたかを想像していくのって楽しくありませんか?(^^)

◇◇◇

散らし書きの構成やテクニックについては、まだまだ勉強することが山ほどあると思いますが、きょうはこんなところで(^^)

散らし書き、相当に奥が深そうです。

みずの古筆

( ̄ー ̄)ゞはい、お約束(笑)


■■■ 草書学習記録 3/31(木) ■■■

17日目。48字テストから。

20160331草書学習1

 閉  冴  芽  財  材  木

 路  各  足  鳴  嶋  鳥

 日  寺  鶴  鳩  九  鷺

 等  持  侍  詩  言  時

 縛  博  専  特  守  尊

 四  駕  加  驚  敬  馬

 禾  高  尚  将  得  罵

 浄  争  府  付  朗  稿

そのあと6字「静・事・矛・茅・務・預」を学習。

20160331草書学習2

稽古時間15分。通算108字。

201304煩悩退散(浅草寺)

( ̄ー ̄)ゞなんだよ突然。ああ、百八だから?(笑)


それではまた~(^^)/