古筆をよむ 7 高野切第一種 6 はるたては(2)

きのうの詞書につづき、歌をよんでいきます。

201603-1高野切第一種6-11

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201603-1高野切第一種6-05

者留多ては」(はるたては)

「留」[ru]が新出ですが、私たちがふだん書いている「る」によく似た形なので自然に読めてしまうと思います。

201603『かな字解』留

『かな字解』より

右は草書の範囲にある形、中央は中間形、左は(略化の進んだ)仮名として標準的な形である――と『かな字解』では説明されています。

今回の「留」は中間形といってよい形をしていますが、左側の「古筆標準形」よりも、こちらの方がいま私たちが使っている「る」に近い形に見えなくもありませんね(^^)

「標準形」の「る」では収筆の「右にクルリ」がほとんど見えずアラビア数字の「3」のように見える例がときどきあります。今回の詞書の中にもありました。

201603-1高野切第一種6-03

これ、最後に「右にクルリ」がないから「ろ」だろう、と思うとさにあらず。「よめろ」でなく「よめる」と読まなければなりません。

「クルリ」が見えなくとも「る」とわかるのは――、

「る」と「ろ」では形も大きさもだいぶ違っているからです。

201603「る」と「ろ」対照

左:る  右:ろ

『かな字典』(関口研二・編)より

(この字典は、かなが原寸大で掲載されています。)

「標準形」の「る」は小さく書かれるのが常です。「呂」を字母とする「ろ」とは形もかなり違いますね。

今のひらがなだと最後の「クルリ」の有無が無視できませんが、古筆ではそれよりも形と大きさの方が見分けのポイントとして確実だと思います。

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201603-1高野切第一種6-06

「ゝとや」(はなとやみらむ)

最初はおどり字です。ひとつ上の字と同じで「は」。

「奈」はこのブログとしては新出ですが、「奈」が「な」の字母であることはとっくにご存じでしょうから、説明は要りませんね。

ちなみに[na]とよむ仮名の字母にはこの「奈」と「那」(既習)がもっとも多く、「難」がつづく――と『かな字解』に説明があります。

「難」もみて、読める字を増やしておきましょうか(^^)

201603『かな字典(二玄社)』難

『かな字典』(二玄社)より

字母の画数が多いこともあって、略化にも限界がある感じです。

「三」[mi]も新出ですが、これも説明不要ですね。

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201603-1高野切第一種6-07

らゆの」(しらゆきの)

「志」が新出です。

「之」から生まれた「し」とともに、「志」もかなり古くから使われているようです。「し」は「之」からだいぶ略化が進んでいますが、「志」の方は草書体のイメージがかなり残っているため、変体仮名としては読みやすい部類といえるのではないでしょうか。

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201603-1高野切第一種6-08

要多尓(かかれるえたに)

この「礼」、ひらがな「れ」に比べれば字母のイメージをだいぶ残していますが、草書体とも距離があり、それなりに略化が進んでいます。

ちなみに「礼」は「禮」の略字ではなく、古代からどちらも使われていたようです。

「要」[e]は、草書の範囲をほとんど出ていません。かな字典をみても、これ以上は略化が進まなかった模様です。

参考までに、王羲之『十七帖』など中国の法帖で草書体をみておきます。

201603「要」草書三体

『角川書道字典』より

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201603-1高野切第一種6-09

「うくひすのく」(うくいすのなく)

ここは問題なく読めると思います。

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全体を再掲して、内容をみていきます。

201603-1高野切第一種6-11

ては ゝとや らゆ

要多尓 うくひすの

はるたては はなとやみらむ しらゆきの

かかれるえたに うくひすのなく

春たてば 花とや見らむ 白雪の

かかれる枝に うぐいすの鳴く

語釈

春たてば  立春になったので

「立春になれば~」と訳すと間違いになります。仮定条件を示すなら古文では「たてば」ではなく、「たたば」(未然形+ば)となります。

花とや見らむ  花と見ているのだろうか

助動詞「らむ」 自分が直接体験していない事柄について推量していることをあらわします。

意味

立春を迎えたので (梅の)花だと思っているのだろうか 白雪のかかった枝にうぐいすが鳴いている

201303梅に鶯

立春を迎えてもなお寒く、梅の枝に白雪が降り積もります。しかしもう立春なのだからと、鶯が雪を白梅と思ったのか、鳴きだしているというのです。現実にはありそうにない、幻想世界(人´∀`).☆.。.:*・゚

最後に全体を再掲します。通読なさってみてください。

201603-1高野切第一種6

《今回の新出仮名》 之 留 奈 三 難 志 礼 要  

通算35字を学びました。

大変お疲れ様でした。それではまた~(^^)/