古筆をよむ 6 高野切第一種 6 はるたては(1)

硬筆書写検定1級の受験対策の一環として、古筆をよむ勉強を続けています。

今回は『高野切第一種』から一首をよみたいと思いますが、その前に――、

変体仮名の参考書として私がいちばんお世話になってきた本をご紹介しておきたいと思います。

201603『かなを読む』

『かなを読む 変体仮名解読と、古筆の鑑賞』(名児耶 明・著)

5年ほど前でしたか、古筆に興味をもつようになっていろいろな参考書に目を通していた頃に、図書館でこの本に出会いました。借り出して読んでみると懇切丁寧なすばらしい解説で、知る限りの類書を圧倒する内容でありました。

それでさっそく入手しようとしたのですが、残念ながらすでに絶版(T_T) amazonやヤフオクなど探してみたけれど出品はありませんでした。

仕方なく図書館の本をそっくりコピーして手元に置いていたのですが、しばらくしてamazonに出品が!急いで購入。新刊価格(2718円+税)とほぼ同じ価格で手に入れることができました。現在、数点の出品がありますが、最低でも5千円ほどの値付けになっています。

絶版本なので紹介をためらってきたのですが、変体仮名の参考書でこれ以上の本とはいまだ出会えず……というほどすばらしい本なので、ご紹介してみました。興味のある方は、ぜひ図書館で探してみてください。

◇◇◇

では今回の歌(古今和歌集 歌番号6)をよんでいきます。

201603-1高野切第一種6

詞書(ことばがき)――その歌をよんだ経緯、事情、背景などを説明する文で、歌の前に書かれる――があります。

今回のこの詞書の中に、変体仮名読解の上で知っておいてほしい大事な事柄が含まれているのでこの歌を選びました。

◇◇◇

ほぼすべて既習の仮名なので、一気にいきます。

201603-1高野切第一種6-01

「ゆ支尓不ゝ()るよめる」

(ゆきのきにふりかか(る よめる)

下から5文字目に、また「わ」のように見える字があります。

――「わ」を見たらまずは「り」と読め、だったよね。

はい、何度もそう書いてきました。しかし、ここでこれを「り」と読むと……、

ゆきのきにふりかか

「ゆきのきに」は「雪の木に」で、現代語にすれば「雪が木に」です。するとそのあとの「ふりかか……」は動詞「ふりかかる」以外に考えられませんよね。「ふりかかる」の活用形に、何らかの助動詞がくっついた形でしょう。

でも、

ふりかか……」

――これじゃ、なんか変。言葉になってなーい(^_^;

そう、ここはやっぱり「ふりかか」でないと変ですよね。

◇◇◇

文法なんて大嫌い!という方はここは読み飛ばしてください(^_^;

文法的には――、

「ふりかかる」の命令形に完了・存続の助動詞「り」をつけて「ふりかかれり」にすると、「ふりかかった」(完了)、あるいは「ふりかかっている(ふりかかり、その結果が残っている)」(存続)の意味になります。

そして、この「ふりかかれり」を連体形にしたのが「ふりかかれる」。つまり、ここは

ふりかかれる(を) よめり

となり、

ふりかかっているのをよんだ

という意味になります。

◇◇◇

さて、これまで何度も――、

「わ」を見たら、まずは「り」とよむべし

という「公式」を述べてきました。

しかし、この「公式」では解決がつかないパターンが実はわずかですが存在します。

ジャジャーン!

ここで新たに 「わ」のようにみえる「れ」 の登場であります(^_^;

この本に解説をお願いすることにします。

201603『かな字解』

『かな字解』(関口研二・著)

この本は、それぞれのかながどんな字母から生まれ、どのように略化されていったか、そのかなは伝統的な形か一時的にあらわれて消えていった形か、等々を分析し、平安時代の仮名の変遷をわかりやすく整理してくれています。

この本の「礼(れ)」の項をみます。

201603『かな字解』礼

まず、『高野切第一、二、三種』に出てくる「れ」の多くは、仮名として標準的な略形である。(写真、青線で囲んだ部分)

しかし、さらに略化が加わった結果、「わ」と混同しやすい形になっているものがある。(赤線で囲んだ部分)

ハァ……メンドクサーイ(n´Д`)

ま、しかし、事情は理解できます。平安時代には多くの能筆たちが競うように試行錯誤してかなの略化を進めていきました。その過程で、別の字母から生まれた別の字でも、字母の偏や旁に共通する部分があるために同じような略形があらわれてしまう――ということがあったのでしょうね。

というわけで、「わ」のように見える字の扱い方に新情報が加わります。

※重要 「わ」に見える形が出てきたら――、

1 まずは「り」と読むべし

2 それで言葉になりそうになければ「わ」で検討

3 それでもだめなら「れ」で検討

3は特に『高野切』をよむときに思い出してもらえればよいかと思います。かな字典を眺めると、別の古筆切にもこれが出てきている例はあるのですが、まあ私たちがそんなによむ機会もない古筆切だと思いますので(^_^;

◇◇◇

「よみ人」はどなたでしょうか。

201603-1高野切第一種6-04

「そいほう」(そせいほうし)

201603百人一首21素性法師

百人一首でおなじみの、この歌を詠まれたお坊様です(^_^) たいへんな和歌の名手ということで、この方の歌は古今和歌集に三十六首も所収されております。

◇◇◇

では、詞書を再掲、通読します。

201603-1高野切第一種6詞書

「ゆ支尓不ゝれるよめる」

(ゆきのきにふりかかれる よめる)

雪の木に降りかかれる(を)よめる

『高野切第一種』では「を」が落ちていますが、古今和歌集の解説本を何冊かみますと、どれも「を」が入っています。

手書きの際にこんなふうに文字を書き落としたり、文言が微妙に変わったりすることがあります。巷の解説本とで文言が微妙に違っている例は『高野切』でもよくあります。

雪が木に降りかかっているのを(みて)よんだ

素性法師

詞書をよむだけでえらくかかってしまいました(^_^; たいへんお疲れ様でした。

明日は歌をよみます。

それではまた(^^)/