古筆をよむ 3 高野切第一種 48 ちりぬとも(2)

昨日はここまでよみました。

201602-1高野切第一種48 1~3句

「ちりぬと かを多にのこ 者流のはな」

(ちりぬとも かをたにのこせ はるのはな)

◇◇◇

続きをよんでいきます。

201602-1高野切第一種48-4

さて、この一字目、どう読まれますか?

きのう、初句の一字目について、「ち」なのか「ら」なのか、なんてお話をしましたが、こっちの方がよほど悩ましい形で書かれていると思いませんか?正解は「こ」なんですが、それこそ自然に「ら」と読んでしまいそうな書かれ方をしています。

でも、私は出光美術館でこれを「ら」と読むことも、「ら」かな?と悩むこともありませんでした。

種明かしは簡単で、ご存じの方も多いと思いますが……(^_^;、

ラ行の音ではじまる和語(やまとことば)はない

ことを知っていたためです。日本語教員の養成科時代に仕入れた知識だったかな、と思います。

ラ行で始まる言葉が出てきたら、それは漢語です。ほとんど100パーセント和語で構成される和歌にはまず出てこない、と考えていいのではないでしょうか。

(初句の一字目「ち」を「ら」と誤読することは、形を見た上でもありませんでしたが、こういう意味でもあり得なかったわけです。)

そんなわけで、この一字目は「こ」ですが、連綿線と合わせてみると「ら」というまるで別の字のように見えてしまう例になっています。

「こ」は、どうも厄介な仮名です。一字の中で線が上下に大きく分離しているので、連綿線で上下の字とつながるとき、まるで別の字の一部のように見えることがあるので要注意ですね。

以前、こんな例もありました。

高野切201512-2自習966-2「こと」連綿

「こと」ですが、「こ」の二画目が「と」の一画目と一体化することで、「こ」の一画目が独立したおどり字(ゝ)のようにも見える、という例でした。

「こ」と連綿線

にだまされないよう気をつけましょう(^^)

二字目は、「悲」[hi]になります。

「この」(こひしきときの)

201602-1かな字典「悲」

『携帯かな字典』より

なお、ここで二つ、「よ」に似た仮名が出てきますが、前回もお話ししたとおり、上部に線の交差があるので「よ」でなく「支」[ki]が正解です。

◇◇◇

201602-1高野切第一種48-5

さていよいよ、出光美術館で思わぬ出逢いのありました――

201602-1高野切第一種48-5-1「お无ひ」

「无」(「無」の異体字)を字母とする[mo]の登場であります。

これは古筆に出てくる典型的な形ではないと、すでに書きました。「无」を字母として[mo](または[mu])と読む仮名の典型的な形は、きのうの――

201602-1高野切第一種48-1-2「ん」

こちらの方です。

この、ひしゃげた「n」のような「无」は、『高野切第三種』『同・第一種』『粘葉装本和漢朗詠集』などに出てくることのある、ちょっと珍しい形です。

そして、その用例はすべて――、

おもひ  おもひて  おもひも  おもへと(おもへど) おもはぬ

つまり、「思ふ(おもう)」の「も」を書くときにだけ、この形が使われている……ようだとも述べました。

ですから、これはもう、とりあえず――

201602-1高野切第一種48-5-1「お无ひ」2

こういうセットで覚えてしまうのがてっとりばやいと思います(^_^)

もし「おもふ」「おもひ」以外でこの字が使われているのを発見したら、このブログですぐにご報告します。

さて、「无」[mo]のほかにも、ここで新出の変体仮名が二つ登場しています。

201602-1高野切第一種48-5

「おひい (1) 尓 (2) む」(おもひい (1) に (2) む」

(1)は「弖(氐)」[te]で、

201602-1かな字典「弖」

『かな字典』(関口研二・著)より

(2)は「世」[se]です。

201602-1かな字典「世」

『かな字典』(関口研二・著)より

ということで、最後の句はこうなります。

「おひい弖尓世む」(おもひいてにせむ)

ε=(・o・*) フゥ、ヨミオエタ…

◇◇◇

全体を再掲して、内容をみていきます。

201602-1高野切第一種48

ちりぬと かをにのこ勢 者流のはな

の おひい弖尓世

ちりぬとも かをたにのこせ はるのはな

こひしきときの おもひいてにせむ

散りぬとも 香をだに残せ 春の花

恋ひしきときの 思ひいでにせむ

(語釈)

だに  せめて~くらいは(最小限の願望)

おもひいで  思い出させるもの、思い出すよすが

(意味)

散ってしまっても 香りだけは残しておくれ 春の花よ

(きみが)恋しいときに 思い出すよすがとしよう

ここでは「春の花」と書かれていますが、古今和歌集の関連本をみるとどれも「梅の花」となっています。

春の到来を告げる梅の花に対し、このさき散ってしまっても香りだけは残していっておくれ、そうすればきみ(梅の花)のことを思い出せるから――というのです。

平安びとの梅の花への愛着の深さがしみじみ伝わってきます(^_^)

今回もたいへんお疲れさまでした。

それではまた~(^^)/