古筆をまなぶ 6 高野切第三種 966 つくはねの(2)

『書蒼』1月号のかな臨書課題、歌番号966をよんでいきます――が、その前に(^_^)

臨書を谷先生にみていただいたところ、お手本が細部まで観察しきれていない部分がいくつかありました。原寸でみているだけだと、私のような入門者は線の細かい動きを見落としてしまうことも少なからずあるようです。

そこで、お手本を少し拡大してみることにしました。拡大率をいろいろ試し、3種類をとりあえず用意してみました。

高野切201512-2 拡大版比較

複写   左:原寸大  中:1.3倍  右:1.5倍

細部の観察用に1.5倍を用意したのですが、これを「なぞり稽古」にも使っていくことにしました。

高野切201512-2 150%版を筆でなぞる

筆に墨をつけず、1.5倍手本の線をなぞります。線の緩急や転折の具合など、書かれたとき(千年前!)の筆遣いを想像しながら流れを追っていきます。墨継ぎしていそうなところに来れば、筆をあげて硯につける動作も入れています(^^)

稽古の流れとしては――、

・まず読みを確認し、意味を調べて内容を理解。

・次に、上のなぞり稽古でしばらく運筆を追体験する。

・それから1.3倍と原寸大で臨書。

――とりあえず、こんな形で進めてみます。

では、はじまりはじまり~(^^)/

◇◇◇

高野切201512-2自習966-2-1手本と臨書

1.3倍  左:お手本  右:臨書

高野切201512-2自習966-2-2

くはねの」(つくはねの)

高野切201512-2自習966-2-3

「こ能毛可のもに」(このもかのもに)

「こ」の第二画が下の「能(の)」につながり、ほとんど一体化しています。

このパターンは「965 ありはてぬ」にもありました。

高野切201512-2自習966-2「こと」連綿

連綿で、「こ」の二画目が下の字の一画目と一体化するパターンです。「こ」の一画目を「ゝ」(おどり字)と誤読しないよう注意したいですね。

高野切201512-2自習966-2-4-1

(?)よる」

今回、新出の変体仮名はこれだけです。字母は「所」で、読みは「so」になります。

「so」と読む仮名について、高野切第三種での出現回数をみてみます。(『変体仮名実用字典(高野切第三種)』より)。

「そ」 10回

「所」 14回

「曾」 13回

「處」  1回

「所」も「曾」もよく出てきていますね。一緒にかな字典でみておきます。

高野切201512-2自習966-2かな字典「所・曽」

『かな字典』二玄社

いま私たちが使っている「そ」とちょっと形の違う、「ろ」のように見える「そ」もありますね。

よる」(たちそよる)

高野切201512-2自習966-2-5

現在も使われる仮名ばかりです。「み」がちょっとだけ違っていますが、この形も覚えておきます。

「はるのみやまの」

高野切201512-2自習966-2-6

けをこひつゝ」(かけをこひつつ)

◇◇◇

通読してみます。

高野切201512-2自習966-2

くはねのこ能毛可のもにちそよ

るはるのみやまのけをこひつゝ

変体仮名をひらがなに改め、言葉の切れ目がわかりやすいように分かち書きをします。

つくはねの このもかのもに たちそよる

はるのみやまの かけを こひつつ

現代仮名遣いにし、必要に応じ濁点をつけます。

つくばねの このもかのもに たちぞよる

はるのみやまの かげを こいつつ

漢字仮名交じりにします。

筑波嶺のこの面かの面に立ちぞ寄る

春のみ山の陰を恋いつつ

(語釈)

つくばね  常陸国(茨城県)の筑波山

西側の男体山と東側の女体山からなり、万葉の昔からよく歌に詠まれてきました。西の富士山は冷厳、それに対して東の筑波山は慈愛深いイメージでとらえられていたようです。

このもかのも  この面あの面→あちらこちら

たちぞよる 「ぞ」は強意。立っては寄る

はるのみやま 春の御山

東宮(皇太子の住む宮殿または皇太子その人)を「春宮」とも書くところから、「はるのみや(ま)」で皇太子の比喩になっています。

はるのみやまのかげ 春の御山の木陰=皇太子の庇護の比喩

(意味)

(慈愛深い)筑波山のあちらこちら(の木陰)に立ち寄り立ち寄りする

春の御山の木陰(春宮の庇護)を恋い慕いながら

帯刀(たちわき=東宮警護官)を解任されて以来、皇太子のこれまでの恩寵のありがたかったことをふりかえりつつ、周囲の人々の世話になりながら日々を送っている境遇が伝わってきます。せつない……(-_-)

この歌には本歌があります。

(古歌をもとに一種のオマージュ――元作品に敬意を込めての二次的な創作――として歌を詠む場合があり、もとになった歌を「本歌」、古歌をもとに詠むことを「本歌取り」といいます。)

1095  常陸歌

筑波嶺の このもかのもに 影はあれど 

君がみかげに ますかげはなし

『関戸本古今集』にこの本歌が載っています。以下は『古筆歳時記3』(筒井茂徳・ゆみ子 共著)掲載の画像です。

高野切201512-2自習966 参考・常陸歌

ひたちうた

徒九八年農 この裳可に影

者安礼登 き三可みか遣耳

ますなし

ひたちうた

つくはねの このもかのもに影

はあれと きみかみかけに

ますかけはなし

(語釈)

きみがみかげ わが君の御影

『古筆歳時記3』によれば、古今集では「君が御影」を「恩寵」と解しているが、本来これは恋歌で、「恋人の影(姿)」の意味であったろうとのことです。

(意味)

常陸歌

筑波山のあちらこちらに木陰はあるが

わが君の御影にまさる影はありません

◇◇◇

『高野切第三種』以外の古筆を初めてご紹介してみました。変体仮名だらけでえらくむずかしい……(^_^; これに比べると高野切第三種は変体仮名が少なめで、よみの入門編としてもとてもよいですね。

さて、たった数回の勉強でも、古筆の世界の雰囲気にも慣れてきて、読める変体仮名もけっこう増えてきましたよね~。ほんとに……

びっくりポン

( ̄ー ̄)ゞ もっていき方にだいぶ無理があるようだけど。

これ作ってみたけど使いどころがなくて……いちど使うてみたかったんどす(笑)

大変お疲れ様でした。それではまた~(^^)/